エアコン修理業務のために室外機を点検していたところ転落死した事案において、電子製品サービス会社(以下「会社」)の代表理事及び法人が、重大災害処罰法違反及び産業安全保健法違反の疑いについて起訴意見で送致されたところ、最近、ソウル東部地方検察庁では、すべての疑いについて嫌疑なしの不起訴処分を下しました。
上記事件において法務法人(有限)太平洋(以下「BKL」)は、重大災害処罰法違反の成否に関する法理的な解釈に基づき積極的な弁論活動によって不起訴処分を引き出すという成果をあげたところ、今回の不起訴処分は捜査機関において初めて重大災害処罰法の違反に係る主要な判断基準を提示したという点で、今後の捜査方向を推し測ることができる先例になるとされ、主な内容及び示唆についてご紹介させていただきます。
I. 事故の概要及び嫌疑事実
会社に所属する被災者は、エアコン修理の過程で建物外壁の外へ出て室外機を点検していたところ、地面に転落して死亡しました。
これに対し、会社の経営責任者であり安全保健管理責任者である代表理事が、(1)[産業安全保健法違反]勤労者に安全帽、安全帯を支給及び着用させ(安全保健規則第32条第1項)、転落防止措置を講じる(安全保健規則第42条)「安全保健措置義務」に違反し、(2)[重大災害処罰法違反]有害・危険要因を確認して改善する業務手続を設け(同法施行令第4条第3号)、重大災害が発生したり発生する切迫した危険がある場合に備えて対応措置、救護措置、追加の被害防止措置に関するマニュアルを用意(同法施行令第4条第8号)するべき「安全保健確保義務」に違反して被災者が死亡したという趣旨で捜査が開始され、以後同じ趣旨で送検されました。
II. BKLの弁論及び不起訴決定の導出
BKLの担当チームは、事故当日に直ちに現場を訪れて現況を把握した後、本件作業があまりにも異例であり予想しづらい事件であることに注目し、すぐに会社の安全保健システム全般を詳細に検討・分析した結果、本件事故が重大災害処罰法で重点を置いている会社の「安全保健システム」の不備によるものではないという部分を十分に釈明することを弁論方向に設定しました。
また、法理的に見ると、産業安全保健法と重大災害処罰法との「二次的因果関係」の成立が困難であると分析した上で、関連する主張とその立証を盛り込んで積極的な弁論活動を行いました。
その結果、検察(ソウル東部地検)は、長期間の綿密な捜査及び法理検討の末、労働庁の意見とは異なり会社の代表理事及び法人への嫌疑事実すべてに関して犯罪が成立しない旨の最終不起訴処分を下しました。
III. 主な示唆
1. 産安法-重処法の二次的因果関係が必要
今回の不起訴決定は、捜査機関において初めて産業安全保健法の違反が媒介された産業災害の発生において、「重大災害処罰法上の安全確保義務の違反により産業安全保健法上の安全措置義務違反の結果がもたらされた」という「二次的因果関係」が立証されてこそ、重大災害処罰法の違反が成立するという点を提示したものであり、今後の重大災害処罰法の違反事例において非常に重要な先例及び基準として機能することが予想されます。
大検察庁が発刊した「重大災害処罰法の罰則解説」では勿論、関連専門家らにおいては、重大災害処罰法の違反が成立するには、法理的に産業安全保健法と重大災害処罰法との間に多段階の因果関係が必要であると言及していましたが、これまで言い渡された判決及び捜査機関の処分例では、かかる二次的因果関係の立証の必要性を直接に言及した事案は見当たりませんでした[1] 。
しかし、今回の不起訴決定において検察は、会社の安全措置義務の履行の現況を詳細に検討した上で、会社レベルでの産業安全保健法令上の義務違反がないため、産業安全保健法の違反を媒介とする重大災害処罰法上の安全確保義務違反と死亡との間には自然に因果関係が認められにくいとし、明示的に「二次的因果関係」の立証の必要性を説示しました。
このような「二次的因果関係」の論理は、今後、重大災害事故に対する関係機関の捜査方向において一応の基準として機能し、重大な影響を及ぼすことと考えられます。
2. 安全保健確保義務の履行による重大災害処罰法の遵守認定
次に、今回の不起訴決定によって、重大災害処罰法上の安全保健確保義務を忠実に履行したならば、たとえ作業現場で重大災害が発生したとしても経営責任者への重大災害処罰法違反が成立しないという点も明確に確認されました。
重大災害の発生時に捜査機関が重大災害処罰法令上の義務をできる限り広く解釈してなるべく違反事項が存在すると評価して起訴が行われた事例があったというのが現実ですが、今回の事件において捜査機関は、重大災害処罰法及び産業安全保健法上の義務規定を合理的に解釈し、実際の違反事項が存在して当該違反事項が事故を引き起こしたに違いないかを綿密に検討する方式によって、今後の捜査が行われる方向性を提示したとも評価することができます。
3. 結語
BKLの重大災害対応本部は、重大災害処罰法の制定以後、重大災害処罰法は受範者らにおいて予測可能な形態で適用されなければならず、法の趣旨に鑑み、会社が産業安全保健法上の義務を履行して重大災害処罰法で述べている安全保健システムを忠実に構築したならば、事故が発生しても刑事責任を負わないことがあるという意見を開陳してきました。
また、今回の不起訴決定をもって確認されたとおり、重大災害処罰法及び産業安全保健法への正確な理解をもとに安全保健管理システムの構築及び確保義務を忠実に履行するならば、仮に不幸な事故が発生したとしても刑事責任を負わないことがあることが確認されました。
したがって、これを機に、会社としては重大災害処罰法に基づく安全保健システムを再点検し、不備がある部分を積極的に補完することで、刑事リスクを減らす案をご検討いただく必要があります。
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法務法人(有限)太平洋は、業界で初めて産業安全TFTを運営して、多様な業務経験やノウハウを蓄積しており、産業安全事故の対応及びComplianceアドバイス分野における卓越した専門性と豊富な実務経験を有しております。法務法人(有限)太平洋は、重大災害処罰法の施行後、既存の産業安全TFTを重大災害予防・対応TFTへ拡大再編し、重大災害処罰法令の内容分析及び事業場への影響、Complianceシステム構築の点検及び今後の対応策、模擬事故の対応訓練による安全保健力量強化、重大災害事件の発生時の捜査対応などに関する総合アドバイスを提供しておりますので、これに関するお問い合わせ等ございましたら、遠慮なくご連絡ください。
1 従来の重大災害処罰法違反の第1、2号判決などでは、経営責任者による安全保健確保義務の違反の点などを羅列した上、これらの全般的な安全保健確保義務の不履行と重大災害の発生とに因果関係が認められるという包括的な説示のみ提示していました。