近日、ブランド価値の重要性が強調されながら、多くの企業において、差別化したブランドを構築できる商標、デザインなどIPの取得や保護に多大な努力を傾けています。このような時代の流れとともに、従来の法律を適用して解釈する中で確認された規範的・制度的な不備点を補完する必要性が指摘されてきました。
改正「デザイン保護法」(以下「デザイン保護法」)及び「不正競争の防止及び営業秘密の保護に関する法律」(以下「不正競争防止法」)では、ブランド権利者の保護において不十分な点を補完する一方、様々な利害関係のバランスがとれる新しい規定を設けました。
I. 改正デザイン保護法の主要な内容及び示唆点
関連デザインの出願期間の拡大、優先権主張要件の緩和など、権利者保護の強化を内容とするデザイン保護法の一部改正案が2023年5月25日、国会の本会議で成立しました。改正デザイン保護法が国務会議を経て公布されれば、6ヶ月の猶予期間を置いて施行されます。以下に詳述します。
1. 関連デザインの出願期間の拡大
デザイン保護法では、出願前に公開されたデザイン(本人公開のデザインを含む)は、新しいデザインではないという理由で登録が拒絶されるのが原則です。しかしながら、企業にとっては消費者に認識されている従来のデザインの大枠を維持しながら、市場の流れに合わせてデザインの一部を改良、変形して出願する必要もあります。これを受け、自己の基本デザインに類似するデザインを一定期間内に出願するときは、新規性の違反などの理由で登録を拒絶せず、独自の効力を持つデザイン権を与えることになりますが、これを「関連デザイン制度」といいます。
関連デザインを出願する場合、基本デザインとは類似しないものの関連デザインと類似する範囲まで権利範囲が拡大されるため、模倣品の発売を最小限にとどめるメリットがあります。ただし、従来のデザイン保護法は、関連デザインが基本デザインのデザイン登録出願日から1年以内に出願された場合に限って登録が可能とされ、企業が人気製品のデザインの一部を改良・変形した後続製品を開発しても、それを関連デザインとして出願して保護を受けるには現実的な困難がありました。これにより、改正デザイン保護法は、関連デザインの出願期間を1年から3年に延長し、関連デザインの登録要件を明確に規定しました(改正デザイン保護法第35条第1項但書き、第4項)。
企業のブランドのイメージ向上に資する主要なデザインの模倣や侵害を防ぐための方策として、関連デザイン出願を積極考慮する必要があります。
2. 新規性喪失の例外主張及び書類提出時期の制限規定の削除
前述のとおり、出願前に公開されたデザインは、新しいデザインではないという理由(新規性の喪失)で登録が拒絶されるのが原則です。ただし、公開済みのデザインであっても、そのデザインが自己のデザインで、且つ公開されて12ヶ月(2017年9月21日前の出願は6ヶ月)が過ぎていなければ、これに対しては例外としてデザインの登録を受けることができますが、この制度を「新規性喪失の例外」といいます。
従来のデザイン保護法では、新規性喪失の例外主張の趣旨を記載した書面と、それを裏付ける資料を提出できる期間が、(ⅰ)出願時、(ⅱ)デザイン登録有無の査定前、(ⅲ)異議申立に対する答弁書の提出時、(ⅳ)無効審判に対する答弁書の提出時に限られていたため、権利範囲確認審判、侵害・無効訴訟などの争いで権利者に不利に働く側面がありました。
これを受け、改正デザイン保護法では、新規性喪失の例外に対する主張及び書類提出時期を制限する手続的条項を削除し、権利者がより容易に新規性喪失の例外の適用を受けることができるようにしました。
3. 優先権主張要件の緩和
「条約による優先権主張」とは、1883年パリ条約に基づいてA国に先に出願したデザインを基に、B国に6ヶ月以内に同じデザインを出願する場合、A国に出願した日をB国に出願した日とみなして新規性、創作の非容易性、先出願などを判断させる制度をいいます。例えば、B国で出願する前に当該デザインが適用された製品を発売した場合、新しいデザインではないという理由でデザイン登録を受けることができませんが、A国の出願日が上記の製品発売日より先であれば、優先権主張をする場合、出願時点が公開時点より繰り上げられるため、B国でも当該デザインの登録を受けられるようになります。
従来のデザイン保護法では、デザイン出願の優先権主張のための方法、手続などが、他の主要な締約国に比べて制限されていることが指摘されてきました。これを受け、今回の改正では、正当な事由があれば、優先権主張及び書類提出期間を延長するなど、デザイン出願の優先権主張のための要件を国際ルールに合わせて緩和しました。
主要な変更事項を比較すれば、下表のとおりです。
4. その他改正事項
これ以外にも今回の改正デザイン保護法は、共同創作者以外にデザイン登録を受ける権利を共有するようになった承継人も共同でデザイン登録出願を行うことができるよう関連条文を整備し(改正デザイン保護法第39条)、職権補正範囲を逸脱したり、明らかに間違っていない事項を職権により補正した場合に対する無効みなし規定を新設しました(改正デザイン保護法第66条第6項)。
II. 改正不正競争防止法の主要な内容及び示唆点
2023年3月28日公布され、2023年9月29日の施行を控えている改正不正競争防止法は、不正競争行為にあたらない例外事由として先使用を明示する一方、誤認・混同防止請求権を新設し、不正競争行為の予防又は差止請求権の消滅時効に関する規定を取り入れることを主要な骨子としています。以下に詳述します。
1. 先使用による不正競争行為の例外規定の新設
旧不正競争防止法(2023年3月28日法律第19289号に改正される前のもの)第2条第1号ア目、イ目は、他人の商品標識及び営業標識の誤認・混同行為、ウ目は著名標識の識別力・名声を損ねる行為が成立するための要件を定めながら、他人の商品標識などが国内に広く認識される前から、それを自己の商品標識などとして用いてきた場合には、不正競争行為の例外にあたるかどうかについて何らの規定も設けられていませんでした。この点、大法院は不正競争防止法は、行為者の主観的意思を要件とせず、善意の先使用者の行為を不正競争行為から外す明文の規定も存在しないという理由により、いわゆる「先使用」の例外を認めませんでした(大法院2004・3・25、2002ダ9011判決参照)。すなわち、商品標識を先に使用した主体であっても、同一・類似の他人の商品標識などが有名になった時点からは、当該商品標識をそれ以上使用できなくなり、製品や営業場の看板などの廃棄・入れ替えなど、経済的損害を被らざるを得ませんでした。
これにより、改正不正競争防止法では不正競争防止法第2条第1号ア目、イ目、ウ目の不正競争行為を「正当な事由なく」誤認・混同を招いたり識別力や名声を損ねる行為として定義する一方、その正当な事由として1)他人の商品標識や営業標識が国内に広く認識される前から、その他人の商品標識に同一・類似の標識を不正な目的なく使用し続ける場合、2)上記にあたる者の承継人として不正な目的なく使用し続ける場合を掲げました。さらに、ウ目については、大統領令で正当な事由を追加で規定できるようにしました。これにより、商標出願前から善意で商標を使用していた先使用者を保護する商標法第99条とのバランスがとれないという不均衡は解消されるものとみられます。
ただ、先使用権は、従来使用していた商品標識などを使用し続けることができるだけで、自己が使用する商品標識などを他人が使用することを禁止するなど積極的な権利行使はできないことに留意する必要があります。従って、自己が使用する商品標識などが積極的な権利として認められるためには、他人より先に商標に出願して登録を受ける必要があります。
2. 誤認・混同防止請求権の新設
先使用者が不正な目的なく商品標識などを先に使用していても、前述の例外規定により、先使用者の商品標識などと周知性を獲得した商品標識などとが共存すれば、消費者に誤認・混同を招きかねません。
これにより、改正不正競争防止法では、国内に広く知られた商品標識などの保有者をして善意の先使用者に対し商品又は営業の間に出処の誤認や混同を防止する上で必要な表示をすることを請求させることにより、両者の利害関係を調整していきます。
III. 今後の見通し
今回の改正デザイン保護法は、競争力あるデザインの保護強化を図るために、主要な制度や手続を大幅に変更する内容が盛り込まれており、改正不正競争防止法は不正競争行為の成立範囲及び差止請求権などの行使範囲の制限、誤認・混同防止請求権の新設など実務に多くの影響を及ぼし得る内容が盛り込まれています。
とりわけ、関連デザイン出願期間が延長され、新規性喪失の例外及び優先権主張に係る要件が緩和されたことは、過去における企業のブランド管理や活用策に変化を伴い得ることを暗示します。さらに、商品標識や営業標識に対する先使用の例外も侵害の対応戦略に少なからず影響を及ぼすことから、今回の改正事項を熟知して先制的に対応できることを模索していく必要があります。