最近、韓国の大法院は、理事会の構成員である理事らに対し、企業内の法規遵守の有無を監視及び監督させる義務があることを確認し、これらの監視及び監督義務は、会社の常務に従事する代表理事及び社内理事に加え、会社の常務に従事しない社外理事などすべての理事が負うことを明確にしました。
大法院は、入札談合により課徴金及び罰金が科せられた企業の代表理事、社内理事、社外理事、監査委員など10人について監視義務に違反したと判断して会社に対する損害賠償責任を認めた原審判決(ソウル高等法院2021・9・3言渡2020ナ2034989判決)を確定しました(大法院2022・5・12言渡2021ダ279347判決)。
大法院は、企業内の法規遵守の有無について理事会の構成員である理事らに監視義務を課して、監視義務をまともに履行できていない理事らが会社の法規違反によって発生した会社の損害を賠償しなければならないという一貫した判示を行っているところ、このような理事の監視義務強化の傾向は続くと思われます。今回の大法院2022・5・12言渡2021ダ279347判決の具体的な意味については、以下のとおりです。
I. 社外理事など会社の常務に従事しない理事も代表理事、社内理事と同一の監視義務を負う
今回の大法院判決では、社外理事など会社の常務に従事しない理事であっても、代表理事及び社内理事と同じ監視義務を負うことを認めました。
大法院は、会社の業務執行を担当していない社外理事などが、内部統制システム(業務に関連して諸法規を体系的に把握してその遵守の有無を管理し、違反事実を発見した場合は直ちに、又は報告して是正措置を講ずることができる形態)が全く構築されていないのに内部統制システムの構築を促すなどの努力をせず、又は内部統制システムが構築されていてもまともに運営されていないと疑われる事由があるにもかかわらず、これに目を背けて放置した場合には、社外理事などの監視義務違反として認められるとしました。
II. 理事会に上程される議案に関与するだけでは足りない
特に、大法院は、理事として在職する間、理事会で上程する議案にのみ関与したという点だけでは、監視義務を履行したと見られないという点を明らかにしました。より具体的に、大法院は、高度に分業化され、専門化された大規模会社において、内部の事務分掌によって代表理事又は一部の理事だけが各々専門分野を専担する場合であっても、すべての理事が、少なくとも適切な内部統制システムを構築して作動させる方式の監視義務を負うと明示的に説示しました。
理事会は、経営上の重要な意思決定を下すだけでなく、経営に対する監督を行う機関です。理事会の経営監督権限は商法に明示されており、理事会は、代表理事をして他の理事又は被用者の業務について理事会に報告するよう要求することができます(商法第393条第2項、第3項)。これまで、理事会は意思決定機能だけが際立っていましたが、今では理事会の経営監督機能が強調されている傾向にあります。
III. 理事又は理事会への報告なく担当本部長の責任の下で違法行為があったとしても監視義務が免除されない
大法院は、違法行為(カルテル)が理事又は理事会に報告されなかったという事情では、理事らに監視義務が免除されないと判断しました。また、理事らではなく担当本部長の責任の下で個別本部に所属する役職員によって違法行為があったとしても、これはカルテルに関与した役職員が理事らによって何ら制止や牽制を受けなかったことに他ならないため、理事らが監視義務の免除を受ける理由になり得ないと見ています。
したがって、理事会及び理事らは、これ以上、受動的に報告される事案に限り監督することでは監視義務違反への責任を免れることができません。
IV. 抽象的かつ包括的なガイドライン又は事前教育では内部統制システムを備えたとはいえない
大法院は、倫理綱領、倫理細則、企業行動綱領などを制定して施行し、又は役職員を対象に倫理経営教育、関連法令教育などを施行したとしても、これは単に役職員の職務遂行に関する抽象的かつ包括的なガイドライン又は事前教育にとどまり、違法行為が疑われたり、確認される場合、これに関する情報を収集して報告し、違法行為を統制する仕組みとはいえないとしました。
また、大法院は、企業の業種特性上、カルテルをはじめとする違法行為がマスコミに報道されて一般に知られており違法行為の可能性が常時存在する場合、当該企業の理事らは内部統制システムの構築又は運用に注意を払うべきと強調しています。
したがって、理事会及び理事らは、企業内の違法行為が疑われたり確認される場合、これに関する情報を収集して報告し、違法行為に関与した役職員らに独立的な調査手続又は懲戒手続を行い、違法行為を統制するシステムを構築した上できちんと作動するよう万全を期す必要があります。
V. 韓国の子会社の運営にあたりコンプライアンス・システム要点検
今回の大法院判決は、効率的な内部コンプライアンス・システムが構築されていないことで会社に違法行為が発生することにより会社が被った損害について、代表理事及び社内理事は勿論、常勤しない社外理事にまでその責任を拡大して認めたという点に重要な意義があります。日系韓国子会社の場合、日本人の役員らが韓国で実際に勤務せずに理事会にだけ参加する場合が多いですが、それら日本人の役員も会社の不正行為が発生して会社に損害が発生した場合、監視義務違反として損害賠償責任を負う可能性が高まりました。
こうした状況において、会社としては、会社の運営にあたり問題となり得るあらゆる違法行為の可能性を事前に把握し、これを効果的に統制できる具体的なコンプライアンス・システムを構築及び活用して積極的に監視義務を履行することが重要です。もはやコンプライアンス・システムの構築及び活用は、会社を運営する上で選択ではなく必須となりました。
法務法人(有限)太平洋の日本チームは、多様な韓国内の日系企業のコンプライアンス・システムの構築及び改善のアドバイス分野における豊富な実務経験に基づく専門性を有しています。これについてご不明な点等ございましたら、遠慮なくご連絡ください。