I. 概要
最近、大法院は「定期賞与金に付けられた在職者条件は無効とされ、定期賞与金の固定性(通常賃金性)が認められる」と判断したソウル高等法院2022・5・4言渡2037630判決に対して申し立てられた上告審において、審理不続行棄却判決を言い渡しました(大法院2022・11・10言渡、2022ダ252578判決)。
通常賃金は、賃金のうち所定勤労の対価として定期性、一律性、固定性を有する金員であり、超過勤労を提供する当時にその支払の有無が業績、成果その他追加の条件に関係なく事前に既に確定していなければ固定性は否定され、これによって「ある時点に在職している勤労者のみに支給する賃金」、すなわち在職者条件が付けられた賃金には固定性がないため通常賃金ではないという立場でした(大法院2013・12・18言渡2012ダ89399全員合議体の判決など)。
ところが、大法院の審理不続行の棄却判決により、在職者条件が付けられた定期賞与金が通常賃金に該当するという原審の判決がそのまま確定し、従来の判例法理に何らかの影響があるのではないかなどをめぐって議論になっています。
II. 在職者条件が付けられた定期賞与金を通常賃金と判断した原審判決の分析
原審の判決が在職者条件の付けられた定期賞与金を通常賃金と判断した根拠は、(1)定期賞与金はある時点の在職に対する対価として支給される金員とされず、基本給と同様に所定勤労の対価としての賃金であること、(2)定期賞与金は賃金として退職日まで勤労日数に応じて支給されなければならず、在職者条件が、既に勤労を提供した者であってもある支払日に在職しなければ既に提供した勤労に相応する分まで支給しないという旨で解釈される限り、無効とされるということです。そして、(1)定期賞与金を勤労の対価として判断した根拠、(2)在職者条件を上記のような範囲で無効とした根拠は、以下のとおりです。
原審の判決は、まず賃金性の有無に関して「相当な分量を割いて定期賞与金の金額、支給方法、実態などを分析して所定勤労の対価である」と判断した上、「定期賞与金は所定勤労の対価なので在職者条件を付けて提供済みの勤労に相応する分を支給しないことは賃金の事前の放棄になり、ひいては定期賞与金は基本給のようなもので、在職者条件を付けることができないという理由により、在職者条件は無効とされる」と判断しました。
原審の判決によれば、ある賃金項目に在職者条件が付けられている場合、その賃金項目が勤労の対価として基本給のような性格を有していれば在職者条件が無効という結論に至ることになるため、結局、固定性の持つ意味が大幅に縮小するといえます。しかしながら、通常賃金はそれ自体で意味があるのではなく、他の法定手当を計算するための道具的概念ということから、原審判断の判断根拠に対してはやや納得し難い側面があります。
ただ、上記のような判断根拠の当否はさておき、上記の事案において定期賞与金が通常賃金という結論は確定していることから、今後確定した上記の原審判決による影響を考慮せざるを得ません。
III. 大法院の審理不続行棄却判決の意味
大法院の審理不続行棄却判決は、本案の審理に入らないまま上告を棄却する判決であり、今回の審理不続行判決に、大法院が明示的に在職者条件が付けられた賃金項目の通常賃金性を認める見方を示したという意味付けをするには難しいと考えられます。とりわけ、大法院が現在、在職者条件が付けられた賃金項目が通常賃金なのかどうかについて、現在、別の事件(大法院2019ダ204876)を全員合議体に付して審理を行っていることに鑑み、同じ争点に関する審理不続行棄却判決に、先例としての価値を完全に付与することは難しいとみられます。
もっとも、今回の審理不続行棄却判決前にも大法院で在職者条件を制限解釈(定期賞与金の全額を支給日現在に在職している者に支給するという意味で、その前に退職した者に支給しないという意味とは捉え難い)した判決(大法院2022・4・28言渡2019ダ238053判決)を言渡し、下級審判決でも在職者条件の効力を否定する判決などが言い渡されているため、在職者条件が付けられた賃金項目は通常賃金ではないという命題がもはや有効とされなくなる可能性が高まっているとみられます。
とりわけ、今後大法院で本件原審の判決と同様、(ⅰ)通常賃金の該否が在職者条件の存否という形式的基準により一律に左右されるのではなく、(ⅱ)在職者条件の有効・無効は当該賃金項目の支給間隔、支給額、支給事由、退職・入社・休職・復職など事案別に日割り支給の有無などを総合考慮して個々の事案別に判断しなければならないという立場で法理を整理する可能性があるとみられ、よって現在大法院全員合議体で審理している事件の成り行きが注目されます。
通常賃金の全員合議体判決(大法院2013・12・18言渡2012ダ89399、2012ダ94643全員合議体判決)が在職者条件の付けられた賃金項目には固定性がないため通常賃金ではないと判示した後、多くの企業がこれに合わせて団体協約を締結したり就業規則を変更したため、今回の審理不続行棄却判決によって確定した原審判決が法理として定着すれば、企業への影響は大きいと予測されます。企業としても、今後大法院の明示的な立場を待つ一方で、法理が変わる可能性を考慮し、事前に通常賃金の該否について点検してみる必要があるとされます。